写経の会

納経法要

第二回 納経法要(2009年10月)

第二回「納経法要」について 書海社理事長であり、青松寺写経の会をご指導いただいている谷村俊二先生に御寄稿いただきました。


二〇〇〇巻奉納を終えて
     書海社 谷村 俊二(号・雋堂)

noukyou0502.jpg平成十五年の青松寺〈護持会〉発足以来、毎月一回開催してきました「写経の会」は、平成十七年六月の第二十五回で通算一〇〇〇巻に達し、記念の納経法要が営まれましたが、その後さらに一〇〇〇巻を積み上げ、本年九月、通算二〇〇〇巻となる納経法要を営むことができました。

 第一回から檀徒として、写経に当たられる皆様のお世話をして参りました先考・谷村義雄(号・憙齋)は、残念ながら昨年十一月に逝去し、法要を天界から見守ることになりました。

 その跡継ぎとして今回の法要に参加させて頂き、普段はあまり信仰心の厚くない私も、多くの皆様の思いが篭もった写経の奉納に、格別の敬虔な気持ちでお勤めをさせて頂きました。

 「写経」は「書道」の分野から見れば特別な一部門で、私はあまり携わることなく過ごしてきました。ここ一年余り、皆さんが一字一字に想いを篭めて「般若心經」を書き上げ、願文を書き添えるお姿を拝見して、書道の原点をもう一度見直す機会を頂くことができました。

 書は上手く書くに越したことはありません。美しく整った字は崇高ですらあります。また、技巧や個性を表出したり、変化や芸術性を創出することも出来ます。書が展覧会を主な活動の場としてからは、次第に後者の傾向にかたより、書家は他人に見せる為の様々な技巧を身につけ、芸術家になりつつあります。

 しかし、書の原点は「伝達」の手段であり、人の思いを告げる媒体でした。特に最高の宗教者たる「王」が「神」との交信の「貞問(のりと)」や「神託(おつげ)」を記録するために発展しました。書は、敬虔な信仰心をもって、深い願いを篭めて書かれたものでした。

 玄奘三蔵が、天竺から膨大な経典を持ち帰り漢訳に従事した時、その深い仏教の概念、思想、哲学をどう伝えるか、大いに腐心したと思います。一部は「般若波羅密多」のように音訳で新たな概念を持ち込むと同時に、「空」や「色」等の漢字には、深い仏教の概念が新たに注入されました。

 漢字は世界で唯一現存する原始的な表意文字です。一字一字が意味を持ち、長い歴史と文化の中でより深い意味合いが加わっています。従って、例えば「愛」や「和」の字に思いを篭めて書く場合に、実はその人の人生観や教養、或いはその時の感情や体調が注入されるものです。逆に、その字を見た人は、肉声を聞くように、その字から書家の息吹を感じることができるのです。

 少し理屈ぽくなりますが、「愛」を「あい」

「LOVE」と書くと、読者は自分で発音して意味を理解します。「愛」という漢字は発音より先に概念を呼び起こします。日本人は「愛(あい)情」「愛(まな)弟子」「愛(いと)しい」「愛(め)でる」と読み換えますが、それは「愛」字の概念の中のどの用例かを、送りがなや前後の文脈から判断した上で発音しています。表意文字である漢字だけの伝達力によるものですが、逆に数千字もの漢字が必要なわけです。

 更に「写経」に使用する「毛筆」は、最も原始的で取扱いの難しい筆記具です。「経文」を書くだけなら鉛筆やボールペンでよく、今日ならワープロソフトの毛筆体で整然とプリントすることもできます。何故、やっかいな毛筆で写経をするのか。単に古式に則り写経するだけでなく、礼式の作法に篭められた意義や伝統への畏敬の現れでしょうし、何より心を篭めることを重視するからでしょう。

 書法状は、太くも細くも、濃くも淡くも、また擦れたり滲んだり、伸びやかにも重厚にも書ける毛筆は、書者の想いが表れる最もデリケートな最良の筆記具なのです。

 「写経」は、決して芸術的に書く必要はありません。余計な技巧を凝らすと邪魔なものです。しかし、深く想いを篭めた上で整然と美しく書くことは、 敬虔な信徒としての心得でしょう。従って、私共が皆さんの写経をサポートするのは、より安静した気持ちで写経に集中して頂くべく、環境を整え、毛筆の扱いや漢字の書体が大きな負担とならずに、しかし、ある格調を備えた写経が仕上がるように準備すること、と考えます。

 青松寺の「写経の会」により多くの方が参加され、心の篭もった「写経」をご奉納頂くことを願っています。その中で、少しでも書の楽しさ、奥深さを感じて頂ければ幸いです。私共も、書をもう一度原点から見直し、真に価値ある書道文化を守り、普及、発展させるべく尽力して参ります。

(平成21年10月8日記)

第一回 納経法要(2005年9月8日)

noukyou0503.jpg谷村憙齋先生ご指導のもと、毎月第二木曜日に行なわれている写経の会。皆さんより、ご先祖様や亡くなられた方のご供養として、般若心経を書写して納められたお経が千巻に達しました。
そこで2005年9月9日、これを巻物に仕立て、仏様にお供えする納経供養の法要が本堂にて厳かに営まれました。般若心経が唱えられ、写経された皆さんのお名前が読み上げられました。
お陰さまで初期の目的を達成されたことを喜ぶとともに、新たなる精進を誓う谷村先生のお話をいただき、納経法要の儀式は終了しました。


次回の納経法要をおつとめする際は、
写経の会に参加されている方へご案内させていただきます。